その子は、小さい頃から「見える」ほうだった。
夜の十時ごろ。
夏の空気は湿っていて、虫の声だけが濃かった。
中学生の僕らは懐中電灯を一本ずつ持って、二人で城跡に向かった。
目的は、クワガタ探しだ。
城跡の裏に回って、森へ続くあの遊歩道の入り口が見えたときだった。
友達が、急に立ち止まった。
「……かゆい。」
腕を掻いているのかと思ったけれど、違った。
全身を、外側からじゃなくて、内側から掻こうとしているみたいな動きだった。
「気持ち悪い……胸が、押されてるみたい……。」
その言い方が、妙に静かだった。
叫ぶわけでもなく、暴れるわけでもなく、
ただ、淡々と自分の状態を報告しているみたいに。
その友達は、昔から霊感が強いと言われていた。
そういう体質の人が、何かに触れたときの反応だと、
そのとき、直感でわかった。
俺たちは、その日はそれ以上進まなかった。
何も言わずに、それぞれの家に帰った。
何かを連れて帰ってはいけないという考えだけは、なぜか一致していた。
翌日。
夕方ごろ、もう一度、同じ場所へ行った。
昨日見たものが気のせいかどうか、確かめるために。
昼間のほうが、まだ安全だと思った。
遊歩道の入り口に着いたとき、
そこで足が止まった。
手すりにも、木の柱にも、石壁にも、
沖縄の魔除け「サングワー」 が
無数に、釘で打ち付けられていた。
何十枚も。
重なるように、乱雑なようで、整っているようで。
誰かが急いで貼り付けたにしては、数が多すぎた。
俺も、その友達も、言葉が出なかった。
この場所には、これまで何度も来たことがある。
昼も夜も通った。
けれど、こんなものは、一度もなかった。
「……そういうことか。」
友達が、ぽつりと言った。
その言葉の意味は、聞かなかった。
聞いたら、戻れない気がしたから。
あの夜、あと五段先に進んでいたら、
俺は、どこまで行っていたんだろう。
サングワーは、風に揺れているわけでもないのに、
少しだけ、震えているように見えた。
まるで、誰かがまだ、そこにいるみたいに。