これは私が18歳の頃の話です。
一人暮らしを始めてから、夜の時間が少し好きになった。
誰にも邪魔されず、考えごともできるし、ただ湯気の中でぼーっとできる。
この夜も、いつものように、リビングの灯りとテレビをつけたまま浴室に入った。
生活音が外側にあると、不思議と落ち着く。
浴室の中は自分だけの世界で、外の薄い明かりと音が「ここは安全だ」と教えてくれる気がした。
シャワーの水が、肩に落ちて跳ねる音。
湯気が天井に溶けていく。
そのはずだった。
…カタカタ。
リビングの方から、小さな物音がした。
床を軽く踏んだような音。
気のせいだと思いたかった。
タオルを取って、浴室を出る。

リビングは、暗かった。
さっきまでついていたはずの灯り。
テレビの画面の光。
それが、綺麗に、完全に消えている。
ブレーカーが落ちたわけではない。
冷蔵庫のモーターが、低く唸っている。
空気は、さっきまでと同じ温度のまま。
違うのは——
「光」だけがなくなっていたこと。
スイッチの場所まで歩きながら、なぜか足音を気にしていた。
暗い部屋の真ん中を、静かに横切るのは、誰の足音だったのか。
パチン。
照明が戻る。
部屋は元の形に戻った。
家具も、影も、何も変わらない。
この部屋には、誰もいない。
はずだった。