気になる。

日常の中にある “小さな違和感” を記録しています。 怖いかどうかは、読んだあなたが決めてください。

第二話:階段

中学一年の時の話です。
時間は、深夜の二時くらい。
家で寝ていたはずなのに、気づいたら外に立っていた。

場所は、家の近くの城跡。
昔から「夜は行かないほうがいい」と言われていたところ。
近所の人はみんな知っていた。
あそこは、いわくつきだと。

なのに、その夜の自分は、そこにいた。
来た理由も、家を出た記憶もない。
足が、勝手にここまで運んだみたいだった。

城跡の裏には、森の中へ続く遊歩道がある。
人が通らなくなって久しい細い道で、
昼間でもなんとなく空気が重かった場所だ。
夜に来るようなところではないはずなのに。
その道の入り口に、五段だけの小さな階段がある。

 

その階段を、上がろうとしたとき。
ふっと、意識が戻った。

まるで、夢から目覚めるみたいに。
自分が、いまどこにいて、何をしようとしていたのかが
一瞬で理解できた。

そして、急に体だけが動いた。
来た道を引き返す。
走ったのか、歩いたのかは覚えていない。
ただ、家に戻らなきゃいけないとだけ思った。

不思議なのは——
その時全然怖くなかったこと。

小さい頃から、暗い場所が苦手だった。
夜道を一人で歩くだけで、息が早くなるような性格だったのに。

あの夜だけは、違った。
森の暗さも、空気の重さも、
後ろに気配みたいなものがあったこともわかっているのに、
なぜか、怖さがなかった。

家に着いた後、部屋に戻ってベッドに横たわったとき、
ようやく心臓が動き出した。
急に、体が震えた。

怖くなかった、ということが
一番、怖かった

あの階段の手前で意識が戻らなかったら、
自分はあのままどこまで行っていたんだろう。

いまでも、あの階段の前を通ると
視界の端で、影が揺れるような気がする。

まるで、
まだ呼んでいる みたいに。