気になる。

日常の中にある “小さな違和感” を記録しています。 怖いかどうかは、読んだあなたが決めてください。

第三話:印

その子は、小さい頃から「見える」ほうだった。

夜の十時ごろ。
夏の空気は湿っていて、虫の声だけが濃かった。
中学生の僕らは懐中電灯を一本ずつ持って、二人で城跡に向かった。
目的は、クワガタ探しだ。

城跡の裏に回って、森へ続くあの遊歩道の入り口が見えたときだった。

友達が、急に立ち止まった。

「……かゆい。」

腕を掻いているのかと思ったけれど、違った。
全身を、外側からじゃなくて、内側から掻こうとしているみたいな動きだった。

「気持ち悪い……胸が、押されてるみたい……。」

その言い方が、妙に静かだった。
叫ぶわけでもなく、暴れるわけでもなく、
ただ、淡々と自分の状態を報告しているみたいに。

その友達は、昔から霊感が強いと言われていた。
そういう体質の人が、何かに触れたときの反応だと、
そのとき、直感でわかった。

俺たちは、その日はそれ以上進まなかった。
何も言わずに、それぞれの家に帰った。
何かを連れて帰ってはいけないという考えだけは、なぜか一致していた。

 

翌日。


夕方ごろ、もう一度、同じ場所へ行った。
昨日見たものが気のせいかどうか、確かめるために。
昼間のほうが、まだ安全だと思った。

遊歩道の入り口に着いたとき、
そこで足が止まった。

手すりにも、木の柱にも、石壁にも、
沖縄の魔除け「サングワー」 が
無数に、釘で打ち付けられていた。

何十枚も。
重なるように、乱雑なようで、整っているようで。
誰かが急いで貼り付けたにしては、数が多すぎた。

俺も、その友達も、言葉が出なかった。

この場所には、これまで何度も来たことがある。
昼も夜も通った。
けれど、こんなものは、一度もなかった。

「……そういうことか。」

友達が、ぽつりと言った。

その言葉の意味は、聞かなかった。
聞いたら、戻れない気がしたから。

あの夜、あと五段先に進んでいたら、
俺は、どこまで行っていたんだろう。

サングワーは、風に揺れているわけでもないのに、
少しだけ、震えているように見えた。

まるで、誰かがまだ、そこにいるみたいに。