高校生になってから、体づくりに夢中になった。
部活というより、自分のために強くなりたいと思った時期だった。
休みの日は、家の近くの城跡でよく走ったり、腕立て伏せをしたりした。
昼間の城跡は、驚くほど明るかった。
空が広くて、木々はしずかに揺れていてとても居心地が良い。
近くに運動できる公園がなかったので、
緑に囲まれたこの場所は、ちょうどよかった。
城跡という名前のわりに、そこはただの広場に見えた。
…ある日、ふと気づいた。
そういえば、誰もいない。
こんなに広くて、空気が澄んでいて、
散歩をしても、ランニングをしても、
人とすれ違うはずの場所なのに。
毎週来ているのに。
何ヶ月も通っているのに。
誰とも会った記憶がない。
走るのをやめて、息を整えながら、周りを見回した。
昼間なのに、影が深い。
風が吹いているのに、葉の音がしない。
誰もいないのに。誰かに見られてるような気がする。
そのときだった。
幼いころの記憶が、突然、繋がるみたいに戻ってきた。
深夜二時。
気づいたら立っていた城跡。
誘われるように進んだ遊歩道。
階段の手前で戻ってきた身体。
翌日、友達が感じた何か。
釘で打ちつけられた無数の魔除け、サングワー。
あれは、夜だけの話じゃなかったのか。
胸の奥が、ゆっくりと冷たくなっていった。
足が重い。
空気が動いたわけではない。
何かが近づいたわけでもない。
ただ、
“見られている” と思った。
呼ばれている。
あの日と同じように。
階段の向こうへ。