小学生の頃、妙な噂が流れていた。
「ひーとぅー島にある廃レストランに入ると、ケガをする」
誰が言い出したのか覚えていない。
沖縄に住んでいれば誰でも知っているような、海にぽつんと浮かぶ小さな島だ。
ひーとぅーは沖縄の方言で「イルカ」という意味。
「あそこは昔、イルカ料理のレストランがあったらしいぞ」とか、「途中で工事が止まって廃墟になったんだよ」なんて、曖昧な噂ばかり。
ある日、友達と海沿いで遊んでいると、潮の満ち引きのおかげで島まで歩けそうなタイミングになった。
「行ってみる?」
そのひと言で、僕たちは探検隊みたいに胸を弾ませながら、海面がキラキラ光る浅瀬を渡った。
近づくにつれて、島の静けさが妙だった。
中は陰でよく見えない。
風の音ばかりが耳に届く。
島に上陸し、錆びて崩れかけ壁を見ながら、僕たちはゆっくり奥に歩いた。
レストラン跡の入り口まで来たとき、突然、胸の奥がざわついた。
怖い、というより“合わない”感じだった。
この場所だけ空気の重さがちがう。
「入る?」
「……やっぱ、やめとく?」
お互いの顔を見ても、答えは出ない。
けれど、子どもの好奇心は強い。
気づけば、僕は入口の影に手を伸ばしていた。
その瞬間――なぜか背筋がひやっとした。
続きが気になった僕らは、そっと入口をのぞき込んだ。
中は暗く、昼間なのに視界が落ち着かない。
なにも“起きない”。
ただ、静かすぎる。
その静けさが逆に、ずっと嫌な予感を残していた。
その違和感の正体に気づいたのは、島を出る“直前”だった。