気になる。

日常の中にある “小さな違和感” を記録しています。 怖いかどうかは、読んだあなたが決めてください。

第八話:切り傷

引き返そう、と言ったのは友達だった。


「なんか、空気が変だよな…」


その一言で、僕らは島の端へ向かって歩き出した。

海風が戻ってくると、少し安心した。
あのレストランの前だけ、妙に音が消えていたことに気づく。

浅瀬を渡りはじめたときだった。
足の裏に、ぴりっと鋭い痛みが走った。

 

「え?」


歩きながら足を上げてみると、
そこには細くまっすぐな切り傷がついていた。

何かに触れた覚えはない。
ガラス片も、岩も、何もなかったはずだ。
島にいたときは気づかなかったのに、
まるで“外へ出た瞬間に気づかされた”みたいだった。

友達も顔色を変えた。

 

「噂…本当だったのかな」


冗談めかして言う声が震えていた。

僕も笑えなかった。
怖いというより、
「何かに見られていた」ような妙な感覚が消えなかった。

海を渡り切ったとき、振り返ると、ひーとぅー島は静かにそこにあった。
風も、波も、さっきまでのことを否定するみたいに優しい。

けれど、僕の足の裏の切り傷だけが、
さっきの出来事が“現実”だったことを証明していた。

それ以来、あの島には二度と近づいていない。
でも、今でも時々思う。

 

――あの傷は、僕を追い返すためだったのか。


――それとも、何かを伝えようとしていたのか。

 

どちらにしても、
あの廃レストランの静けさは、
今も僕の記憶の中で、ざわざわと音を立て続けている。