沖縄には、昔から“スリーエス”と呼ばれる心霊スポットがある。
正式な名前ではない。地元の人間が勝手にそう呼んでいるだけだ。
ただ、その響きとは裏腹に、噂は妙に生々しい。
「帰り道で事故る。」
いつも決まって“帰り道”なんだ。
先輩が実際に事故を起こしたらしい。
ブレーキは踏んだのに、効かなかったと言っていた。
原因は分からないまま、車は廃車になったらしい。
そんな話を聞いたあとに、俺たちは三人で行くことにした。
好奇心と、ちょっとした怖いもの見たさと…まあ、そういう年頃だった。
夜のスリーエスは拍子抜けするほど静かで、
何かがいる感じも、不気味な音が聞こえるわけでもなかった。
「なんだ、普通だな。」
友達が笑いながら言って、俺も同じように笑った。
結局、何事もなく引き返すことにした。
その帰り道だった。
運転していたのは友達。
俺は後部座席で、窓の外の真っ暗な森を眺めていた。
ふと、ライトが妙に広い範囲を照らしているように見えた。
そのとき、妙な違和感に気づいた。
ガードレールが、すぐ目の前に迫っている。
「やばい!!」
友達が叫びながらハンドルを切る。
タイヤが悲鳴を上げた。
金属がこすれる匂いが車内に流れ込む。
ほんの数十センチずれていたら、
俺たち三人は崖の下に落ちていたかもしれない。
車はしばらく止まったまま、誰も動けなかった。
友達が絞り出すように言った。
「カーブ、見えんかった…。」
俺も、見えなかった。
ライトが反射したわけでもなかった。
ただ、“道がなかった”ようにしか見えなかった。
帰り道が危ない。
そんな噂を思い出したのは、家についてからだ。
スリーエスの何が危険なのか。
場所なのか、何かがいるのか…それとも、
“帰る途中で何かが寄ってくる”のか。
俺たちは、それ以上深く話すことはしなかった。
ただ、もう二度と夜に近づく気にはなれなかった。